ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

YAMAHA L-15

戻る
長野県にお住まいのH.S.さんからYAMAHA L-15とYAMAH FG-201のリペアご依頼をいただきました。

YAMAH L-15はフレット交換、弦周りのTUSQ化とボディクラック・リペアを行いました。

リペア後のギターを受け取られてH.S.さんから暖かいメッセージが届きました。

樋口様へ

大変お世話になりました。
ありがとうございました。

本日リペア完了のFG-201、L-15が到着しました。
早速手に取って調弦しながら依頼箇所確認しました。ナット、サドル、フレット、エンドピン、クラック、スクラッチ、ほか・・・。

リペア依頼予約から2年間、待っていて良かったです。
FG-201はリペアと言うより進化したといった感じです。木材の経年変化に今風の音・・・いいです。
L-15はぼろぼろの状態で私の所に来てケース開けたら半分死にそうなずっと息を止めてこらえている様に感じた木材の色をしていました。最近なんとなく血色が良くなってきていて、そんなタイミングでリペアして頂き益々元気になった様な気がします。

音も最近のデジタル系のような音?6本の弦がそれぞれに音の幅がしっかりとして広くなりました。
ほんとうにありがとうございました。

H.S.

H.S.さん、早速の暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

リペア後のギターにご満足いただき、とてもうれしく思っています。そしてなによりホッと安心しております。

今回、リペア後のギターを試奏させていただいて、H.S.さんのおっしゃるとおり、 経年とともにギターは進化していくものだなぁ、ということを改めて実感させていただきました。

簡単に言葉では言い表すのは難しいのですが・・・
L-15の重低音の迫力のある音色、そしてFG-201の優しい上品な音色・・・

全く異なる楽器とも言える音色の差を感じた次第です。

特にFG-201はH.S.さんから最初にいただいたメールのメッセージを思い出しながらのリペア作業でした(笑)。

「これは私が中学生の時になけなしのこずかいで購入した思い入れのあるギターなのですが安物です。
楽器屋さんに相談したらメーカーに送ることはできますが安物なら買換えた方がベターだと言われました。
安物を修理にだすのが恥ずかしくてためらっています。」

H.S.さんの思い出のいっぱい詰まったギターをリペアさせていただいて、本当に感謝しております。
私はギターの値打ちは、その価格ではなくオーナー様の思い入れの大きさに比例するもの、と信じて疑いません。

この度は弊工房にリペアのご依頼を賜り、本当にありがとうございました。
今後ともよろしくお願いいたします。


フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

3.フィンガーボードの平面性を確認します。
4.軽くサンディングします。

5.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
6.フレット打ち込みの準備が整いました。

7.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。
8.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。

9.カットしたフレット端です。
10..フレットタング部をプライヤーでカットします。

11.バインディング加工後のフレット端です。
12.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

13.第一のフレットプレス・ジグです。
14.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

15.ジグをサウンドホールから入れていきます。
16.ハンドルを回してフレットをプレスします。

17.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
18.2つ目のジグはこのように固定します。

19.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
20.順にプレスを進めていきます。

21.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
22.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

23.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
24.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

25.カットしたフレット端です。
26.カットしたフレット片は見失わないように一カ所に集めておきます。

27.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
28.1弦側のフレット端も同じように整形します。

29.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
30.ボディもアクリル板でカバーしました。

31.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
32.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

33.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
34.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

35.さらにスチールウールで研磨を進めます。
36.最後はコンパウンドで磨き上げます。

37.プロテクタ類を外しましょう。
38.ピカピカのフレットになりました。


ナット交換

1.オリジナルナットです。
2.ナットはすでに外れていました。

3. ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.オリジナルナットから弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.ナット高調整前の弦溝です。
24.弦高調整後のナット弦溝です。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。


ピッチ調整~サドル製作

1.サウンドホールにチューナーを取り付け、サドル山位置はフレット片で調整出来るようにしました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドルピーク位置を書き写しておきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル上部にピーク位置を書き写し、削りだしていきます。

11.サドル山を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
14.ブリッジピン穴加工を終えました。

15.サドルを取り付けました。
16.完成したオフセットサドルとブリッジです。


ボディクラック・リペア

1.トップ板にクラックが見られます。
2.木部の割れはほとんど見られません。

3.サイドにもクラックが見られます。
4.こちらはスクラッチ(擦り傷)です。

5.ボディ内部補強用のパッチ材をスプルース材から切り出します。
6.パッチ材の木目はトップ板の木目と垂直になるようにします。

7.サイドを斜めにカットしました。
8.台形の断面です。

9.一つ一つの大きさに切りました。
10.サイドをさらに斜面加工しました。

11.ボディ内部の様子です。
12.パッチ材接着用ジグです。アクリル板にマグネットを取り付けました。

13.ジグにパッチブロックをつけました。
14.パッチ材に接着剤を塗って、ボディ内に入れます。

15.マグネットクランプしました。
16.サイドのクラックはこのブロック(パッチ材+マグネット)を使います。

17.サイドのクラックにもパッチ材をクランプしました。
18.ジグとマグネットを外しました。

19.パッチ材の固着が完了しました。次に塗装タッチアップを行います。
20.塗装割れの縁を削り取るようにナイフでカットします。

21.サイドのスクラッチもタッチアップしましょう。
22.スクラッチ層を削り取りました。

23.ラッカーを塗っていきます。
24.サイドのクラックにもラッカーを塗ります。

25.スクラッチ部分は広い範囲に塗っていきます。
26.ラッカーが乾きました。

27.トップ板の別の箇所です。
28.サイド部です。少し盛り上がっています。

29.スクレイパー(安全カミソリ)で盛り上がった部分を削っていきます。
30.もう少し削っていきましょう。

スクレイピングしている様子です。


31.水研磨します。耐水ペーパーで全体を平坦化していきます。(#800→#1000→#2000)。
32.サイド部も同様に研磨していきます。

33.タッチアップの完了です。
34.トップ、別のクラック跡です。

35.サイド・スクラッチはほぼ完全に消えました。
36.バックボード割れもパッチを当てました。